前回からの続きで、快眠に誘う音楽について具体的な例を挙げていきましょう。
前回の記事
暮らしと音楽の「密」な関係。vol.9
寝苦しい夜もぐっすり!入眠前のグッド・ミュージック
まずはおさらい。眠る前に音楽を聴くなら、以下の3点に気をつけることが必要です。
1.過度なリズムのない音楽
2.歌詞のない曲
3.気分の浮き立つ音楽は避ける
「ボサノバはリズムも穏やかで、入眠前にもよいのでは?」という意見もあるかと思います。しかし、音楽の構造的には高揚する(ワクワクする)類に入りますので、入眠前よりは目覚めにふさわしい音楽といえるでしょう。
また「浮き立つ」の反意語が「沈む」(Depress)のではなく、「静まる」(Calm)であると考えると、選曲も絞られるのではないでしょうか。いくつか具体的な例を見ていきましょう。
「Meditation」Joe Pass
ジャズ・ギターの名手によるソロ作。メロディをていねいに聴かせる、癒しのサウンドです。しかし聴くほどにギター1本ではなし得ないプレイであると知れるので、テクニック的に聴くのではなく、全景を眺めるような聴き方がおすすめ。
「Portrait in Jazz」Bill Evans
ピアノ・ジャズの傑作。夢と現の間に滲むように、眠りに誘われるのではないでしょうか。ビル・エヴァンスは多くの作品を残していますが、ある事件をきっかけにそのプレイには陰鬱なカラーがつきまとうようになります。そのころのプレイは、芸術的に素晴らしいものですが、入眠前には……気持ちが重くなってしまうかもしれないのでご注意を。
「Angel Eyes」Jimmy Smith
あまり知られてはいませんが、オルガンの名手が晩年に残したバラード・アルバム。“Ballads & Slow Jams”というサブタイトルの通り、どの曲もとろけるようなサウンドが印象的。メロディを彩る蠱惑的なハモンド・オルガンの揺らぎに身を任せれば、夢心地も近そうです。
「Ballad」John Coltrane
ジャズの名作を10枚あげるなら、必ずノミネートされるだろう作品。偉大なサックス奏者が、激情の合間を縫ってみせた優しい一面を見事に捉えています。前述した「Meditation」もそうですが、音楽の中に入り込もうとするよりも、音のプールに浮いてたゆたうような聴き方がおすすめです。
と、ここまで4作を挙げてきましたが、いかがでしょう。
私たちの多くは学校教育において「メジャーは明るい」「マイナーは暗い」という程度にしか音楽の知覚について学びませんでした。しかし、そのほかにもさまざまな効能、感情表現が音楽には詰まっているのです。それらを感覚でも掴めるようになったら、もう一歩本質的なところに近づけます。
ちろん、いかに良い曲といえど大事なのは聴く側が好きかどうか。正解はありませんから、あなたの好みの音を見つけ、リラックスすることから始めてください。
|♪♪♪|今回の4タイトルを含めた「Good Night Jazz」というプレイリストをSpotifyで公開しました。順次増やしていきますので、よろしければチェックしてみてください。
大伴公一 | Koichi Otomo
(ミュージック・ソムリエ / 愛猫家)
立命館大学を卒業後、音楽専門誌ジャズライフの編集を経てブルーノート・ジャパン/モーション・ブルー・ヨコハマに勤務。2018年にはモントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパンのプロデューサーに就任。現在は文筆業の傍ら、ジャズ番組のナビゲーターや横濱ジャズプロムナードのプログラムディレクターも務めている。ミュージックソムリエ。