暮らしと音楽の「密」な関係。vol.15|サブスクの定着でどうなる!?「親のレコード棚」からの影響

いろいろな音楽家にお話を伺う中で、「親の持っていたレコードをこっそり聴いたことが、音楽に目覚めたきっかけ」というケースに出会うことがよくあります。童謡やアニメの主題歌しか知らなかった耳に、ビートルズやアース・ウィンド&ファイア、グレン・ミラーなどのサウンドは斬新に響くのでしょう。これがきっかけで楽器を始め、ミュージシャンになったという方は案外多いものです。

筆者が音楽にのめりこんだきっかけは、親がカーステレオから流していた桑田佳祐さんの「スキップビート」でした。当時8歳!?

一方で近年の家庭にはほぼ間違いなくレコードなどありません。2010年頃には「家にCDを再生する機会がPCしかない」と聞いて、笑い話かと思っていましたが、現在はPCでさえCD/DVDは外付けで用意するものが主流。音楽や映像は多くがデータで配信され、昨今では“ジャケット”という概念もあまりなくなってきました。ではこれから先「親のレコード棚」からの影響は、これからどのように変化していくでしょう。

両親がスマホの中だけで音楽を聴くようになれば、子供にその影響が伝播することはなくなるでしょう。ビートルズやEW&Fが輝かしかったのは、見つけた際の偶然性も加味されたもの。自分だけの宝物をこっそりと発掘するのにも似ています。しかし親のスマホにはロックがかかっていて、どんな音楽を聴いているかなんてわかりません。サブスクのプレイリストを眺めることがあっても……果たしてそれが能動的な発掘にまで及ぶかは疑問です。

小学生でもスマホを持つ時代、これからの若い世代が胸震わせるような音楽に出会うのは親のレコード棚ではなく、Youtubeやクオリティの高いプレイリストになっていくでしょう。

しかし、氾濫した情報のなかで自らの人生を揺るがすほどの音楽に出会うケースはいかばかりのものか。ああ子供たちの、音楽の、未来は暗い。やはり成熟した盤文化こそが素晴らしい。

と、つい先日まで私も思っていました。

このコロナ禍で、拙宅の子供(5歳)が、サブスクにハマりました。「鬼滅の刃」や「スパイ×ファミリー」といった、すこし上の世代がみるアニメを食い入るようにみていたのですが、急に主題歌を歌い始めるではありませんか。

「スパイ×ファミリー」主題歌「ミックス・ナッツ」(Official髭男dism)

後追いで聴いてみれば、変拍子や急な転調、テンションを多用したメロディなどプログレッシブな部分が多く、私の頃に比べるとJポップもずいぶん進化しているのだと実感。「ポップ」と謳っていても、その要素にはジャズ、ハードロック、パンクなどがごちゃ混ぜになっていて、1曲でフルコースのような充足感が得られてしまう。これもまたサブスク時代ならではの楽曲の特徴でしょう。

5歳の息子には歌詞の意味などわかるはずもなく、「幸せのテンプレート」「不安だらけ、なりゆき任せのHome, You Know?」など、語感だけを頼りに、しかし嬉々として歌う様をみて、ああこの子たちの音楽的な未来は明るいのだなと思い直しました。

「鬼滅の刃」主題歌「残響散歌」(Aimer) こちらのサウンドも鮮烈。

そういえば先日、ヒットチャートを賑わす若手シンガーにインタヴューした時のこと。「どんな音楽に影響を受けましたか?」の質問に、「エルメート・パスコアールの“浅草”!」と返ってきたことにのけぞった覚えがあります。エルメートはブラジルの鬼才。時代や国籍さえ飛び越えてこの音を掴んだこともまた、彼の才能のひとつなのでしょう。

エルメート・パスコアール「フェア・デ・アサクサ」。行商人の口上をメロディにあてはめ、コードとリズムを付与している。

CDがなくても、スピーカーがなくても、リビングはある。今日は音楽の話をしながら食卓を囲んでみませんか? 音楽を通してまだ知らない一面を見られる、かもしれません。

大伴公一 | Koichi Otomo
(ミュージック・ソムリエ / 愛猫家)

立命館大学を卒業後、音楽専門誌ジャズライフの編集を経てブルーノート・ジャパン/モーション・ブルー・ヨコハマに勤務。2018年にはモントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパンのプロデューサーに就任。現在は文筆業の傍ら、ジャズ番組のナビゲーターや横濱ジャズプロムナードのプログラムディレクターも務めている。ミュージックソムリエ。

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