新型コロナウイルスの感染が広まって以降、同時多数が参加するリアル・イベントがいくつも中止になってきました。それまで上り調子だった音楽フェスも、感染拡大の煽りを受けて2020、2021年と中止/延期したものが目立ちます。参加したかったユーザーはもちろん、出演が決まっていたミュージシャンも、主催していた企業も、多くの来場者で賑わうはずだった自治体も、それぞれが辛い気持ちを抱えたことでしょう。
しかし、主催者もただ泣き寝入りしていたわけではありません。
「with コロナ」の生活様式に対応できるよう様々な策を講じ、議論を重ねてきました。その結果、この2年間で積み重ねてきた経験をもとに安全な開催を掲げるイベントが増え、ようやく開催できるイベントが目立つようになってきました。
関東近郊では5月中旬に開催を予定している「Love Supreme Jazz Festival 2022」が大型フェスの口火を切ります。ロンドン最大級のフェスとして知られる同フェスは、2020年に日本初開催を予定していましたが、初回からコロナ蔓延のため中止の憂き目にあってしまいます。3度目の正直となる今回は、ジャズを中心に、ヒップホップからポップスまでをラインナップ。ロバート・グラスパーやセルジオ・メンデスをはじめ、来日ミュージシャンが多く参加することも話題を呼んでいます。
次いで横浜の“グリーン・ルーム・フェスティバル”も開催を発表。「サーフカルチャー、ビーチカルチャーをルーツに持つ、音楽とアートのカルチャーフェスティバル」というコンセプトのもと、国内外のトップ・ミュージシャンたちが白熱のステージを繰り広げます。なんといっても、横浜港を眼前に仰ぐ最高のロケーション。飲食や物販のブースも多く出店するので、足を運べば雰囲気だけでも十分楽しめるでしょう。
毎年夏に新潟県の苗場スキー場を舞台に開催されてきた国内最大級のイベントが、“フジロックフェスティバル”。歴代のヘッドライナーはレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、グリーン・デイ、エミネム、ビョークなど世界を代表するミュージシャンばかり。最大級だけに、同フェスが取り組んでいる感染防止策は全国のイベント関係者が注目するところです。今年はジャック・ホワイトやトム・ミッシュの参加も決まり、ファンの盛り上がりもひとしお。
ライブは生音で体感するのがイチバン……ですが、まだ不安な方は家で配信を楽しんではいかがでしょう。コロナ禍で多くのフェスがリアルと配信を両立させていますが、中には配信に特化したフェスも出てきました。4月末に開催される“ジャズオーディトリア”もそのひとつ。全世界と中継を繋ぎながら、リアルタイムでさまざまなサウンドを楽しむことができます。
現在では技術の進歩によりエンタメとさまざまなビジネスの融合がネット上で実現し始めています。リアルとバーチャルとをつなぐ“メタバース”と呼ばれる仮想空間では、より没入感の高い疑似体験が可能。まだ課題も多く残っていますが、開発が進めば将来は自宅のリビングがフェス会場になる……かもしれません。
大伴公一 | Koichi Otomo
(ミュージック・ソムリエ / 愛猫家)
立命館大学を卒業後、音楽専門誌ジャズライフの編集を経てブルーノート・ジャパン/モーション・ブルー・ヨコハマに勤務。2018年にはモントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパンのプロデューサーに就任。現在は文筆業の傍ら、ジャズ番組のナビゲーターや横濱ジャズプロムナードのプログラムディレクターも務めている。ミュージックソムリエ。